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札幌地方裁判所 昭和34年(ワ)702号 判決 1961年1月17日

原告 片岡殖 外二名

被告 山カ片岡合名会社 外一名

主文

被告片岡一太郎は被告会社について昭和三二年一〇月一日存立期間満了による解散登記手続をせよ。

被告片岡一太郎は昭和三二年一〇月二日被告会社のためになした同月一日社員片岡殖、同片岡久子、同片岡春樹、同小林松恵、同石照が退社し、同日片岡寛純、片岡寛光が入社して会社を継続した旨の登記の抹消登記手続をせよ。

被告会社が解散したものであることの確認を求める訴はこれを却下する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの連帯負担とし、その余を被告片岡一太郎の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨並びに「被告会社は昭和三二年一〇月一日存立期間の満了によつて解散したものであることを確認する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、被告会社は酒類、醤油、味噌、雑貨類の販売、殖林事業並びに鉱業経営等を目的とする合名会社で、その存立時期については昭和三二年一〇月中定款を変更して昭和三二年九月三〇日までと定められた。右存立期間満了当時における被告会社の社員は原告ら三名、訴外小林松恵、同石照及び被告一太郎の六名で被告一太郎は昭和二二年一〇月一一日以降代表社員であつた。

二、被告会社の定款第一五条は、「本社の存立期間は昭和二二年一〇月一日より昭和三二年九月三〇日までとす。但し総会の決議により更に継続することを得る。」と定めてある。

三、原告ら三名は右存立期間の満了前である昭和三二年九月二四日代表社員である被告一太郎に対し会社継続をなすか否か、継続する場合の代表社員の選任、解散する場合の清算人の選任等について協議するため、速かに社員総会を開催すべき旨を請求したが、同被告はこれに応ぜず、かえつて同月二七日発送の書面をもつて同被告以外の全社員に対し、一〇月一日までに会社の継続に賛成しなれば継続同意書を、不賛成ならば継続不同意書を同被告に送付すべき旨を申し送つてきた。原告ら外二名の社員は右申入れに回答せず、却つて原告ら三名は同月三〇日被告一太郎に対し社員総会を開き代表社員から会社の状況について報告を受け検討した後でなければ継続について賛否の意見は述べ難い旨及び速かに社員総会を開かれたい旨を通知したが、被告一太郎は総会の開催をしなかつた。

四、したがつて被告一太郎を除く他の五名の社員は全部被告会社を継続するか否かの意思表示をしなかつたし、被告一太郎も継続の賛否に関する意思を表示しなかつた。よつて被告会社は会社継続についての社員総会もなく、同意もない。

五、ところが被告一太郎は同年一〇月二日札幌法務局において、「(一)昭和三二年一〇月一日原告ら及び小林松恵、石照は退社した。(二)昭和三二年一〇月一日新たに社員として片岡寛純、片岡寛光を加入して会社を継続した。(三)同日札幌市南二条西二十八丁目一七四番地の二、出資金四万円、片岡寛純、同所、出資金金四万円、片岡寛光が入社した。」旨の登記申請をなし、その旨の登記が経由され、被告一太郎は依然として代表社員として登記簿上存続している。

六、よつて原告らは被告会社が昭和三二年一〇月一日存立期間を満了したことにより解散したものであることの確認を求め、且つ被告一太郎に対し右各登記の抹消登記手続を求めるため本訴請求に及ぶ。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告らは被告会社の解散していることの確認を求めるけれども、解散した場合持分の払戻を受けても、現在のまゝ退社したものとして持分の払戻を受けても実質的には同一であつて法律的地位に不安はない。その余の請求も右主張を前提とするものであるからいずれも訴の利益はない。

二、原告請求原因第一の事実、第三の事実中被告一太郎が代表社員として原告らに主張の書面を送り、全社員に対し同年一〇月一日までに会社の継続に賛成ならば継続同意書を、不賛成ならば継続不同意書を同被告に送付するよう申し入れたことは認めるけれども、その余の点は不知、第四の主張は争う。第五の事実中その主張の登記のあることは認める。

三、被告一太郎は昭和三一年一二月から翌三二年一一月まで高血圧症のため入院加療をした。そこで被告会社の存立期間満了時期の切迫した際原告らの敵対的態度と病状から、社員総会も開催できず且つ従前被告会社では社員総会を開催した慣行もなく、また社員総会なる形式も必要はないので原告ら主張の書面をもつて原告らの被告会社継続に対する同意、不同意の意見を求め、同年一〇月一日までに回答のないときは会社継続に同意しないものとして取扱う旨を通知したものである。ところが原告らはいずれもなんの回答をなさなかつたので、被告一太郎は被告会社を解散、滅亡させることに忍びず、商法第九五条により会社継続に同意した。よつて原告らは右法条の規定に従い退社したものとみなされたので、被告会社の社員は被告一太郎一人となつた。そこで被告一太郎は昭和三二年一〇月一日同意書を作成し長男片岡寛純及び次男寛光を新たに社員に加入せしめ、翌二日札幌法務局において原告主張のような登記手続を経たものである。よつて右登記は適法でありその抹消並びに解散登記手続を求める原告らの本訴請求は理由がない。

立証として、原告訴訟代理人は甲第一号証、同第二号証の一、二、同第三号証、同第四、第五号証の各一、二、同第六、第七号証を提出し、原告片岡春樹本人の尋問の結果を援用し、乙第一ないし第一五号証、同第一九ないし第二一号証、同第二二号証の一ないし四の各成立を認め、同第一七、第一八号証の会社代表者名下の印影は認めるけれども、その成立は不知と述べた。

被告訴訟代理人は乙第一ないし第二一号証、同第二二号証の一ないし四を提出し、甲号各証の成立をいずれも認めると述べた。

理由

一、よつて先づ職権をもつて「被告会社の解散したこと」の確認を求める原告の請求の適否について判断する。

確認訴訟における訴訟物は特別の規定のない限りは、現在の一定の権利関係又は法律関係の存否についての主張でなければならないことは明らかである。ところで「会社の解散」とは当該会社において法令の定める解散事由が発生することにより、会社が営業能力を喪失し、他面原則として清算手続の開始される状態の発生したことを指称するものと解される。したがつて解散したことにより会社と第三者間、又は会社と社員間における法律関係又は権利関係は爾後従前と異る関係又は状態が発生することはあるけれども、「解散した」こと自体は右の各種の法律関係又は権利関係に変動を与える原由に過ぎず、なんの権利関係でもなく、法律関係でもないから、その確認を求める訴は不適法のものと解すべきである。

また仮りに右の請求の趣旨が、「解散した後の法律関係の確認を求めるもの」と解しても、会社の解散により会社の代表者は清算人となり、清算人が業務の執行者となり、社員の競業避止義務が消滅し、社員に残余財産の処分に関する請求権が発生する等各種の新しい法律関係又は権利関係が生ずる。しかし右の各権利関係等についてはそれぞれ関係者が異り得るのであるし、その各別個の権利関係について確認の利益が別個に判断されなければならないから結局確認を求める権利関係が特定を欠くものといわなければならない。よつて右の趣旨に解されるとしても右請求は特定を欠くものとして違法であることを免れない。よつて右確認を求める訴は却下を免れないものであるる。

二、次に被告会社の継続登記の抹消及び解散登記の手続を求める請求について判断する。

被告は、原告らは被告会社を退社しても、被告会社が解散しても、その持分払戻請求をなし得ることは同一であるから、解散のあつたことを前提とする本件請求は訴の利益がないと主張するけれども、合名会社を退社した社員に対する持分払戻は原則として金銭をもつてなされるに反し、解散した場合の会社財産の処分方法は定款又は総社員の同意をもつてこれを定めることができる(商法第一一七条)のであり、右の点一事のみでも、退社社員の地位と解散後の社員の地位は同一とはいゝ得ないのみならず、原告らは被告会社の社員であると主張し、その地位に基いて、被告会社の会社継続登記の効力を争い、総社員の申請によるべき解散登記手続の協力を被告一太郎に求めるものであるから、原告の右請求はいずれも訴の利益はあるものといわなければならない。

よつて進んで判断する。

被告会社がその定款によりその存立期間を昭和三二年九月三〇日までと定めてあること、右満了時期において被告会社の社員が原告ら及び被告一太郎、訴外小林松恵、同石照であり被告一太郎が代表社員であつたこと、被告会社は昭和三二年一〇月一日被告一太郎の会社継続同意があり、その余の社員には同意がないものとし、被告一太郎を除く他の社員が退社し、新社員として訴外片岡寛純、片岡寛光が入社して、会社継続があつた旨の変更登記が経由されていることは当事者間に争のないところである。

そうすると、先ず、被告会社は昭和三二年九月三〇日の経過とともに商法第九四条第一号の事由の発生によつて解散したものといわなければならない。

そこで会社継続の点について判断する。商法第九五条第一項によれば一般に合名会社がその存立時期の満了によつて解散した場合は、社員の全部又は一部の同意をもつて会社を継続し得る旨を定めている。したがつて右の事由で解散した場合、会社継続に同意する社員は、社員総員の同意はもとより社員の過半数の同意をも得ることなく、会社継続をなし得るものと解するのが相当である。しかし、本件においてはその成立に争のない甲第七号証、原告片岡春樹本人の尋問の結果によれば、被告会社はその定款第一五条に、「本社の存立期間は昭和二二年一〇月一日より昭和三二年九月三〇日までとす。但し総会の決議により更に継続することを得。」と定めてあることを認めることができる。合名会社はその存立期間を定めたとき、定款変更によつて存立期間を延長し、実質的に会社の継続を図り得ることは明らかである。そうすると右定款第一五条但書が上述の趣旨を規定したに過ぎないとすれば、当然のことを注意的に規定したに過ぎないものとなる。しかし定款は会社の内部的秩序を規律する根本的規範であるから、特別の支障の認められない限りは意味あるものと解すべきである。そうすると右の但書の規定は被告会社が存立期間を経過して解散した場合においても、商法第九五条に定める場合と異り、一部社員の同意によつて会社継続をなすことを許さず、社員総会の決議の方法による場合においてのみ継続を許す趣旨と解するのが相当である。そしてその成立に争のない甲第一号証、乙第一九号証、乙第五号証、前示原告片岡春樹本人尋問の結果認められるところの被告会社の創立事情及び社員構成、即ち、右会社は原告ら、被告一太郎らの父である訴外片岡唯一郎が主となつて創立し、大正七年一〇月三日以降は右唯一郎の妻及び子女をすべて含め、(その後妻は退社したが)その余の社員の入社を許さず、兄弟仲よく団結して片岡家の財産を保全して行くことを目的とした事情に照せば右定款の条項は会社解散後においても、社員総会の議を経て総社員が会社継続をなすか否かを定めるべきで、一部社員のみの構成による継続は許さない趣旨のものと解すべきである。そうすると被告会社においては商法第九五条の規定にかゝわらず総会の継続同意の議決のない限り継続は許されないものと解すべきである。

ところで被告一太郎が被告会社代表社員として、被告会社の継続について、社員総会を招集しなかつたことは被告の自陳するところである。しかし被告は書面によつて全社員の意見を求めたと主張するのでこの点について考えるに、被告一太郎が原告ら全社員に対し昭和三二年九月二七日被告会社の継続についてその意見を求め、同年一〇月一日までにその意見の陳述を求めたことは当事者間に争のないところである。そして前掲甲第七号証によれば被告会社は社員総会の招集手続、議決方法等その会議についての要件については、定款になんの定めもしていないのであるから、その決議は必しも常に招集手続をなさなければならないものとは解されず、したがつて右のような書面によつて全社員の意見を求め得られゝばその意見の集約によつて少くとも総会の議決に代る決定のあつたものと解することに支障はないものといわなければならない。しかし、被告一太郎の右の書面に対して被告一太郎を除くその余の社員はなんらの回答をしなかつたことは当事者間に争のないところである。そうすると右の会社継続に関する議題について被告一太郎を除く他の社員の同意は得られていないのであるから右の議題は成立しなかつたものと解さなければならない。そうすると被告会社はいまだ会社継続はなされておらず、依然解散事由の発生したまゝ清算手続に入るべき状態にあり、原告らはその社員の地位にあるものといわなければならない。

また片岡寛純、同寛光の入社したとの被告の主張は、被告会社が現に解散中であり、原告らもまた社員の地位にあること前示判示のとおりであるところ原告らを含めた総社員が右両名の入社について同意したことを認め得る証拠はない。

そうすると被告主張の会社継続及び片岡寛純、同寛光の入社の主張はいずれも理由がないものといわなければならない。そうすると被告会社は現に解散中であり、原告らは被告会社の社員であると認めるべきであるから「被告会社が、継続され、原告らが退社して訴外片岡寛純、同片岡寛光が新たに入社した」旨の登記の抹消手続を求め、且つ、被告会社の解散登記手続を求める原告らの請求は理由がある。

三、よつて原告らの右登記手続を求める請求はこれを正当として認容し、被告会社が解散したことの確認を求める訴は違法として却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小河八十次)

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